植物由来の成分のみで製造され、
添加物が使用されていない
セルロースナノファイバー。
MaCSIE®は植物(食品残渣)のみを利用して生み出される人の体や環境に優しいCNFです。柑橘類をはじめ、様々な食品残渣を利用して開発を行っています。
MaCSIE®とは
MaCSIE®は弊社が開発した食品残渣に含まれるセルロースを利用したCNFです。柑橘類などの搾汁残渣や食品工場で発生する残渣を弊社独自の技術でCNF化しており、アップサイクル原料になります。MaCSIE®は化粧品や食品の分野で採用されています。
写真提供:国立研究開発法人
産業技術総合研究所 関西センター
MaCSIE®の開発経緯
弊社がCNFの研究開発に取り組む中で、愛媛県では柑橘類の搾汁残渣が年間5,000t以上廃棄されていることを知り、また、柑橘類の搾汁残渣にはセルロースだけでなく多くの生理活性物質が含まれている点に注目して、独自に柑橘CNFの開発を開始していました。2018年から、愛媛県・産業技術総合研究所・愛媛大学・県内企業との共同開発を経て、2021年4月、化粧品および食品向けの天然機能性材料としてMaCSIE®という商品名で上市しました。
現在では、柑橘CNF製造技術を応用し、柑橘に限らず様々な「セルロースを含む食品残渣」からMaCSIE®を製造しています。
MaCSIE®の強み・特徴
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無添加無変性の天然原料
MaCSIE®には、化学薬品等による処理や添加を行っていません。製紙技術を応用した機械的な処理のみで素材を細かくし、製造しています。そのためMaCSIE®は、天然素材をそのまま活かした、無添加無変性の天然原料として安心してご使用いただけます。
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環境に配慮した原料
MaCSIE®は食品工場等で有効利用されていないような食品残渣を原料(素材)としています。そのため、可食部位を使用するバイオマス原料と異なり、人口増加に伴う食糧不足問題とも競合しない、新たなバイオマス原料となります。
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他社にない製品
食品残渣を機械的な処理のみで加工しているため、食品原料としてそのままお使いいただけます。また、食品残渣のペーストですので、様々な機能性を持ちながら、食品添加物には該当しないため、食品添加物表示の削減が可能となります。さらに、セルロースを含む食品残渣であれば製造可能であるため、幅広い素材から製造可能で、最終製品にマッチしたオリジナルのCNFペーストが提供可能です。
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様々な機能性
MaCSIE®は天然由来原料でありながら、その3次元のネットワーク構造により、乳化性や分散安定性、徐放性といった多くの物理的な機能性や、素材となった食品残渣由来の機能性成分による生理活性も持った原料であり、既存の薬品や食品添加物からの置き換えが可能です。
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受賞や特許
第27回 四国産業技術大賞で「柑橘セルロースナノファイバーの開発」が最優秀 技術功績賞を受賞しました。(2022年)
第36回 中小企業優秀新技術・新製品賞 一般部門で柑橘セルロースナノファイバー「MaCSIE®」が優良賞を受賞しました。(2024年)
柑橘果皮由来ナノファイバー及びその製造方法に関しては特許を取得しています。
[特許 2019-058636]
共同開発者
愛媛県産業技術研究所
技術開発部 副部長
福田 直大
- 1998年
- 広島大学大学院工学研究科工業化学専攻 修了
愛媛県入庁(職種:化学) 愛媛県立衛生環境研究所配属 - 2005年
- 愛媛県工業技術センター化学環境室
(現産業技術研究所技術開発部) - 2011年
- 愛媛県庁経済労働部産業創出課
- 2014年
- 愛媛県産業技術研究所食品産業技術センター
- 2020年
- 愛媛県庁経済労働部産業創出課 担当係長
- 2023年
- 現職
国立研究開発法人産業技術総合研究所
健康医工学研究部門 研究グループ長
堀江 祐範
弘前大学農学部卒。岩手大学にて学位取得後、
JST、産業医科大学等を得て産総研に入所。
博士(農学)。
長年CNFの生体影響を研究していた先駆者として
経験とデータに基づく正確な判断をこころがけて。
長年、ナノ材料が私たちの体にどのような影響があるかについて研究してきました。その経験から、CNFの生体影響評価に関するお声がけをいただき、中小企業庁の旧サポイン事業による「柑橘由来セルロースナノファイバー(CNF)の革新的製造プロセス及び用途開発」に参画することができました。これが愛媛製紙様との出会いでした。それ以来、長年にわたり一緒に研究を進めています。ナノ材料は化学的な成分が同じでも、懸濁液の中でどのような状態か(ばらけているか、凝集しているか、ほかの物質とくっついているか)で、生体応答が違ってしまう場合があります。常に実際の状態を考え、間違った評価をしないように気を付けました。
柑橘の果皮由来のCNFというユニークな発想、
新しい可能性への挑戦。
現在新規素材としてCNFが注目されていますが、多くのCNFが研究・開発される中で、愛媛県の特産品である柑橘に着目し、その果皮を原料とした柑橘CNFを開発されています。柑橘CNFは他に例を見ないユニークなCNFであり、研究素材としても非常に魅力的だと感じています。柑橘の果皮には、ヘスペリジンやナリルチンといった私たちに有益な効果を持つポリフェノールが含まれています。MaCSIE®は柑橘の果皮を原料としていることから、果皮に含まれるこれらの機能性成分の効果も期待できるかもしれません。柑橘の種類が変わることで成分も変わるので可能性も広く、今後の研究が期待されます。
愛媛製紙様は、製紙という伝統的な技術基盤を持ちながら新素材の開発にも積極的に取り組まれている魅力的な企業です。貴社のますますのご発展をお祈り申し上げるとともに、今後とも魅力的な研究開発に携わる機会をいただければ幸いです。
愛媛大学 イノベーション創出院
紙産業イノベーションセンター 講師
秀野 晃大
- 2007年
- 筑波大学大学院 博士後期課程 修了(博士(農学))
産総研 特別研究員 - 2009年
- 愛媛大学 上級研究員
- 2010年
- 同大学 上級研究員(特任講師)
- 2014年
- 同大学 大学院農学研究科 助教
- 2023年
- 同大学 紙産業イノベーションセンター 講師(現在に至る)
国内外で発表した研究が縁を繋ぎ
MaCSIE®および関連商品の製品化が実現。
2012年から柑橘果皮搾汁残渣(ポンジュースの搾りかす)を利用したCNFに関する研究を始め、2014年には国際誌に発表しました。そこでは、ペクチナーゼという酵素を用いて、ペクチンを除去する事で“綺麗な”CNFを調製したのですが、その際、柑橘果皮が木材パルプよりナノファイバー化しやすい素材である事を明らかにしました。この特性は本事業でも活かされていますが、MaCSIE®ではペクチンを除去せずそのまま微細化しています。ほかにも柑橘果皮CNFの乳化能の発見(2019年に国内誌で発表)と応用など、これまで他がやっていない新しいテーマを考案し、実験で立証してきました。柑橘果皮の有効活用について“0”から“1”を産む姿勢で研究を行い、論文や書籍で発表していたところに、事業のメンバーとして声をかけていただいたのが開発に携わるきっかけです。本事業では、先行研究者として、その特性を活かした化粧品類の開発などについて情報提供や提案を行うとともに、分析技術やノウハウを活かして、試作品の化学組成の分析、詳細な形態観察、粘弾性の評価など品質管理に関わる項目を担当いたしました。
他の機能性食品素材やプロバイオティクスとの組み合わせ
次第で可能性が広がる、魅力的な健康食品基材。
MaCSIE®の原料は、柑橘ジュースの製造過程で廃棄される果皮から成る産業廃棄物です。つまり、食品廃棄物の利用であり、原料コストの低減とアップサイクルが見込めます。柑橘果皮は一次壁主体の構造を有しナノ化が容易なため、加工コストも低く抑えることが可能です。さらに、CNFの中でも乳化能が比較的高い点があります。そして、その性能を活かした化粧品やアルコール飲料を製品化しており、実績があるのは愛媛製紙様の強みです。これまで食品への応用が制限されていたCNFの中で、MaCSIE®はその存在感を益々増すと考えられます。さらに、柑橘果皮は機能性成分を含んでいますのでCNFとの相乗効果で機能性食品としての開発も期待できます。原料、加工、機能性、製品化の全ての点において強みを持った製品といえます。柑橘果皮は、ヒトにとって食経験のある素材です。意外かもしれませんが、食品向けに応用できるCNFの種類は、そこまで多くありません。だからこそ他の機能性食品素材やプロバイオティクスと安心して組み合わせ、今までにない新たなアプローチから健康食品を開発することも夢ではないと私は考えています。
ラボスケールからスケールアップし、連続的な生産設備・体制を形成し、製品化に至る部分は、愛媛製紙様の企業努力の賜物で、本当に素晴らしいと思います。また、井川社長の姿勢と想い、お人柄によって、MaCSIE®が実用化されたといっても過言ではありません。社長みずから試作や関係者へのプレゼン、展示会のご準備などをされていました。率先して動かれ積極的な姿勢を見せておられたのですが、お人柄は大変穏やかな方でした。また、製紙会社にも関わらず柑橘果皮をCNFの原料に選択する点や、昨今のカーボンニュートラル社会構築への対応から早々にバイオマスボイラーを導入された点など、既存の製紙事業の枠に収まらず、次世代の事業育成を着々と進められている点も、バイオマスの研究者としては興味深く今後も色々な開発をご一緒できればと思っています。
MaCSIE®が採用された
製品の一例
宝酒造 チューハイ
丸おろし夏みかん
夏みかんCNFの乳化機能によってオイル成分を効率的に閉じ込めることで、香りが良くなり、味にも深みを与えることができました。
MaCSIE ボタニカル UV クリーム
MaCSIE®の分散安定化効果で酸化チタンを効率的に分散させることでノンケミカル処方でありながらSPF50+・PA+++を達成しています。また、チクソトロピー性によってすっと伸びて、ピタっと肌に定着するテクスチャーとなっています。
NM FIRM
保湿クリーム
リンスインシャンプー
泡ボディソープ
植物由来原料にこだわった製品シリーズに採用されています。MaCSIE®がもつ乳化機能と保湿効果・皮膚保護機能が注目されています。既存の化成品から、植物由来のMaCSIE®への置き換えが期待できます。
MaCSIE®の応用事例
パン類
MaCSIE®は保水性が高く、数日経ってもパンの水分を維持することができます。あわせて、MaCSIE®が持つ保形性は硬度を高める効果がありますので、時間が経過しても焼き上がり時の触感・食感を保つことができます。
お菓子類
MaCSIE®の3次元のネットワーク構造により、アイスクリームやチョコレートに配合することで溶けにくくすることが可能です。
MaCSIE®はこの他にも
様々な食品や化粧品に
ご採用いただいています。
お問い合わせ先
弊社、製品開発につきましては、
愛媛製紙株式会社 技術部へお問い合わせください。
サンプル提供も行っています。
柑橘類の付加価値向上を目指し、
果皮に新しい可能性を見出したい。
柑橘をジュースなどに加工した際に発生する搾汁残渣を有効利用することは長年の課題でした。私が当所の食品産業技術センターに配属された2014年、県内の柑橘搾汁残渣量とその利用について調査した結果、年間約1.8万トン搾汁残渣が発生し、このうち陳皮に1割程度、堆肥や飼料に約6割利用され、残りの約3割は廃棄処分されていることがわかりました。温州ミカン果皮が漢方の陳皮に使われているように、柑橘の果皮は健康に良いということが知られており、また柑橘果皮には機能性があるにもかかわらず、有効活用されないのはもったいないとの思いから、県産柑橘類の付加価値向上を目指して、柑橘果皮の機能性を活かした加工食品等の開発に向けた研究を実施しました。果皮そのものの用途開発を検討するに当たり、2015年当時の産業技術総合研究所中国センターの柳下所長、遠藤グループ長、熊谷主任研究員他の指導を仰ぎ、柑橘果皮からのナノファイバー技術について研究を始めました。そして2018年3月、メディアの報道で愛媛製紙様が同じような取り組みをされていると知り、すぐに直接連絡をし、共同開発を進めることになりました。
柑橘果皮の色と香りを維持したまま、機能性成分を持った
無添加無変性の天然機能性材料。
開発を始めた当時は機能性表示食品制度が始まった頃で、柑橘の果皮由来の機能性を本格的に謳った食品はほとんどありませんでした。現在では、βクリプトキサンチン、オーラプテン、ノビレチンが機能性表示食品の機能性関与成分になっております。MaCSIE®の持つ増粘性、乳化安定性、溶液安定性等の様々な特徴は、これらの柑橘果皮由来の機能性を活かした食品の用途をさらに広げる可能性があります。実際に、宝酒造の丸おろし夏みかんに採用された缶酎ハイでは、風味をMaCSIE®に閉じ込めることで美味しさを引き立てることにも成功しており、今後の販路開拓に大変期待しています。
MaCSIE®は柑橘果皮をナノレベルまで処理した他にはない材料です。柑橘果皮の色と香り、食品としての機能性をそのまま残すことに成功しており、柑橘由来の機能性成分による生理活性も持った、無添加無変性の天然機能性材料であるといえます。
私たちの研究はサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)にも採択いただいていますが、終了と同時に商品化にまで至った事例はあまり多くないと思います。共同研究の成果を商品化していただいた皆様には感謝しかありません。また、本県に対して、愛媛製紙様より中小企業優秀技術・新技術賞の賞金をご寄付いただいたことにも、改めて感謝申し上げます。